魁桜
『可愛い…』
デカいくまのぬいぐるみをぎゅうと抱き締めて、暁斗を見た。
『ねぇ、見て!めっちゃ可愛い!』
「お前ぬいぐるみに埋もれてるよ」
『これだけのぬいぐるみ欲しい…』
「そんなに置いてどうしたいんだよ…」
もちろん、埋もれたい!!
……っていうのは冗談で。ぬいぐるみなんてあるだけで癒されるからいいじゃない。
『可愛くない?』
「……普通」
…男にぬいぐるみの可愛さはわかるまい!こんなにも可愛いのにさ!
「普段とのギャップすげぇぞ、お前」
『ほんと可愛い。……え、なんか言った?』
「…別に」
ふいっとそっぽ向いてしまった暁斗に、あたしは首を傾げたままぬいぐるみを抱き締めていた。
『―――…そろそろ違うとこ行こっか』
もうぬいぐるみを抱きしめるのに満足したあたしは暁斗にそう言った。
「買わねぇの?」
『うん。ただ見たかっただけだし。さーて、次はどこ行こかっなぁ』
屋内を出れば、辺りは夕暮れ時。帰る人も疎らにいた。
『あー、もう夕方かぁ…。時間って経つの早いね』
「そうだな」
不意に横を見れば、観覧車が見えた。
『観覧車…』
「稚里?」
一度は乗ってみたいと思っていたそれが、目の前にある。
「観覧車、乗るか?」
暁斗の方を振り向くと、ニコリと笑っていてあたしも笑顔で頷いた。