君がいるだけで…[番外編短編集]
『じゃ、行って来るわ』


今日がバレンタインだからと言って何か変わるわけではなく、いつものように家を出ようとした。


そしたら後ろからパタパタと音がする。


「待ってっ、」


その正体は美月しかいない。


玄関を開けようとした手を止めて、後ろを振り返る。


『…?』


俺と同じく着なれてきたスーツを着ている美月。


「私も一緒に行く」


『おぅ』


お互い社会人になってからは、
時間が合えば一緒に途中まで会社へ行っている。


そして今日は一緒に家を出た。


お互いの会社は近いわけでもないが、
降りる駅が偶然にも一緒だった。


『じゃあな…』


「雅也…っ!」


いつもは改札を出てすぐ別れるのだが、今日は美月に呼び止められた。


「きょ、今日は、は、早く帰って来てね!」


そう言うだけ言って勝手に背中を向けて去って行った美月。


『言い逃げかよ…』


いつもは見せない顔を見せる美月。


会社でもあんな顔見せてたらと思うと気が気じゃない。


ただてさえ美月は綺麗系なんだから。


高校ん時も、美月の性格上から男に言い寄られることはなかったけど、人気があったことは知っている。


しかもいつも美月と一緒にいる親友の紗羅ちゃんは可愛い系で、二人揃って有名だったからな。


あんな顔、他の男の前ですんなよ?


美月は俺以外の前では、強気な女でいればいい。


なんて柄にもないことを心の中で思っていた。


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