「金剛戦士Ⅰ」黎明の夢
どうにかこうにか苦労しながらも、予定よりも二時間近く遅れて宿に到着した。

着くのが遅くなったので、先に夕食を済ませてから入浴して部屋でくつろいでいると、由紀の携帯電話が鳴り、誰からなのだろうと思いながら、電話の画面に出ている着信相手の名前を見ると、一昨日の朝、出発する時に別れた、お婆ちゃんたちの一人からだった。

「理絵、香川のお婆ちゃんからだわ」と言い、電話を取った。

「もしもし、由紀です。元気ですか、お婆ちゃん」・・・

お婆ちゃんは、由紀たちは今夜、どの辺りで泊まっているのかを、訊ねてきたので十三番の七、八キロ手前の宿だと伝えた。

すると彼女は
「ええ、まだそんな所なの。もっと進んでいるのかと思った」

と言うので由紀は、昨日、経験した山道が大変だったことや、今日は筋肉痛で普通に歩くのにも苦しんだことを話した。

そしたら電話の向こうで彼女が、他のお婆ちゃんたちに由紀の話したことを伝え、彼女らの笑い声が聞こえてきた。

そして徳島の、お婆ちゃんに電話を替わり、彼女が

「ふふ、あの山じゃ、無理ないわよね。きっと貴方たちにとっては、初めての体験だったでしょうし大変だったでしょう。何となく姿が想像できそうね」

と笑いをこらえるように話すので、由紀が

「笑い事じゃないの、トイレへ行くのにも気合がいるほど痛くて大変なの」

それを聞いた彼女たちが、また電話の向こうでくすくすと笑っているのが聞こえてくる。
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