「金剛戦士Ⅰ」黎明の夢
その時と比べると二十番は、寺が建っている山の頂が目の前に見え、目標が分かりやすくて上りやすい。

由紀と理絵も、八十八ヶ所を巡り始めた時よりは、体力が向上し筋力も付いたのであろう、わりと楽に上って行く。

今度はひどい筋肉痛に襲われない為にと、適度に休息をはさみながら進んでゆく。

それでも進むうちに坂道もきつくなり、由紀も歩く速度が徐々に落ちてくる。

最初は話しをしながら歩いていた二人だったが、だんだんと寡黙になってきて、ついには、あまり喋らなくなってきた。

そして由紀が遅れそうになると、理絵が励ます声が聞こえてくるだけになってきた。

二十番鶴林寺の仁王門をくぐる時には、相当息も上がって苦しそうになっていたが、お参りを済ませて二十一番へ向かう頃には、体力も回復して楽になってきていた。

「この間の十二番よりは、楽だったね。私にも、だいぶんパワーが付いてきたのね」

由紀の言葉を聞いて理絵は、けっこう苦しそうな表情をしていたわりには、強気なことを言うなあと思ったが

「そうねぇ、歩きが以前よりも力強くなっているね」

と由紀の気持ちを乗せておいた。

これから下り坂の後、もう一度、二十一番まで一気に上り坂が続く、由紀の元気をできるだけ持続させなければならない。

雨は、しとしと降り続く。

かなり急な下り坂である。この間の山道では、下り坂で二人とも何度も滑って転んだので、今度は慎重に下りてゆく。

それでも道が雨でぬかるんでいて、何度も滑りそうになったが、どうにか耐えながら、下まで下りてきて、那賀川を渡り、少し上った所で、弁当を食べることにした。
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