「金剛戦士Ⅰ」黎明の夢
そして一番機発射の四ヶ月前に、最後の現実的な訓練が月面基地と月の宇宙ステーションを利用して実施されたのだが、その訓練中に悲劇が起こってしまったのである。

それは月の宇宙ステーションから月面基地に移動する時に発生した。

恐らくは宇宙塵が原因だと考えられているが、宏らの乗った月面基地へ向かうシャトル便が小さな破損を起こし、それが元で着陸に失敗した。乗員全員死亡という大惨事になり、世界中にショックが走った。

計画は二番機以降の乗員を繰り上げて実施することとなったが、原因究明と対策の為、半年近く遅れてしまう結果となった。

この事故が宇宙開発における最後の大事故であり、その後、小さな事故はあっても人命が失われるというような惨事は起きていなかったのである。

今回、五隻の調査船とエウロパ・ステーションの消息不明事故が起きるまでは・・・

宏は月での訓練の三週間前から二週間の間、自宅に戻り家族と過ごしたが、それが最後の別れとなった。その時に宏は、これからの夢や希望、楽しみから、今、食べたい物まで色んなことを、いっぱい家族に話した。

いつもは学者として探究に没頭していたこともあり、常に何かを考えている風であり、自分から、たくさん話をする方ではなかったのだが、この時ばかりは何となく、それまでとは様子が違う気もした。

しかし由紀は、それが現在の仕事が順調で気に入っているからかな、と思っていた。
今、思えば、宏に何かしら本人にも気づかない予感でも、あったのかも知れない。

宏が亡くなった時、直は大学受験前で十八歳、理絵はまだ小学生で十二歳であった。

直は将来エンジニアになりたくて大学の工学部を希望していたのだが、父親が亡くなる直前に休暇で戻っていた時、楽しそうに話していた太陽系のことに興味が湧き、父親と同じ道を選び、大学の理学部に入った。

卒業してからは、政府系の研究機関で仕事をしていて認められ、異例の若さでエウロパ調査隊の隊長となり、エウロパの観測宇宙ステーションに滞在したのである。
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