「金剛戦士Ⅰ」黎明の夢
予定では、この時間には、すでに十一番を出発して十二番に向かっている筈だったのだが、今朝、宿を出る時に、お婆ちゃんたちと話をしていた時間や、橋の途中で時間を潰してしまったことで、かなり遅れてしまった。

今夜は十二番焼山寺の宿坊で泊まる予定で予約をしておいたのだが、キャンセルして十一番の近くで泊まれる宿を探さなければならない。

本当であれば十一番から十二番の途中に宿があれば都合がよいのであるが、十一番と十二番の間は、ずっと険しく細い山道であり宿泊施設など無い。

昼食に入った店で、今夜の宿泊予定をキャンセルする連絡を宿坊に入れ、明晩の宿泊に変更してもらい、今夜、泊まれる宿を案内書を見て探し、予約をいれた。

昼食を済ませて歩いてゆくと、少しずつ上り坂になってくる。

南に向かって、もう少し上れば十一番である。

十一番に着き、仁王門を入って驚いた。そこには広い藤棚があり、花は咲き終わりに近づいていたものの、まだ、かなり残っていて五色の藤の花が咲いている。

二人は、満開であったならば、もっと美しかったであろうと思いつつも、その美しさに見とれていた。

十一番藤井寺の名前も、この藤の花に由来しているのであろうと感じた。

その時、由紀はポツリと額に雨が落ちてきたのを感じた。

空を見上げると、いつの間にか雲が広がっていて、ついに雨が降り始めたようだ。

お参りを終わらせて境内から出ようとすると、木で作られた道しるべが立っていて、十二番焼山寺と書かれた矢印が目に付いた。

十二番に向かって道しるべの示す方向へ少し歩いてみたが、どんどん上り坂が急になってゆくのが分かる。

立ち止まり前を見ると、細い遍路道が、四国山地の山の奥に向かって吸い込まれていっている。
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