佳き日に
あの日の君
[1]





「物事はすべて成り行きね。」


2,3週間前に見た映画で女優がそんなことを言っていた。


柳琥珀はふとそんなことを思った。


そのセリフを言ったのは、お人好しのごくごく普通な人から愛された女の人だったはずだ。
彼女はすでに会社のかなり地位の高い人と恋人関係だった。

それなのに、彼女はお人好しの男の元へ行ってしまう。


確かに彼女を愛する気持ちはお人好しの男の方が勝っていたかもしれない。
でも、今後の人生の安定や経済面を考えたら、やっぱり恋人の元に留まるべきだった。


愛とか恋とかで生きてたら、幸せにはなれない気がする。



コツ、コツ、とヒールの高い靴の踵を鳴らし琥珀は歩いていく。
すれ違う人達が皆彼女を二度見していく。



物事は、成り行きだ。



再び琥珀は思った。
そして、自分の状況をもう一度確認する。







・・・・・どうして私は深紅のドレスを着て大通りを歩いているんだろう。










ことの始まりは、一週間程前に遡る。



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