佳き日に
「これ、いつ発表するの?」
「来月。」
一ヶ月も先なんだ、と雨は少し驚いたようだ。
だが、クラス全員で合唱をするのは時間がかかることなのだ。
そう雨に言っても、分からないような顔された。
「女の子はアルトとソプラノってパートに分かれて歌うの。」
「君はどっち?」
「アルト。」
エナカは別に声が低いわけでもなかったがアルトにした。
人数が少ない方がなんだか特別なパートに思えたのだ。
それからラジカセから流れるこの星に生まれてを三回ほど聞いた。
英語の部分はどういった意味なのだろう。
一緒に夢を叶える?
エナカがぼんやりとそう考えていたら、雨が唐突に言葉を発した。
「行きたい。」
「・・・どこに?」
今まで満足げに曲を聞いていたのに。
何を言い出すんだこの人。
「君がこの曲を歌う、えーと、発表会?」
「文化祭。」
「そう、文化祭に行きたい。」
ニコニコと、普段は微かにしか笑わないくせにこーゆー時だけ満面の笑みをして。
最近分かったことだが雨はけっこうあざとい。
「・・・文化祭は普通生徒の親が行くものだから。」
「じゃあ君の親と友人ってことにして。」
一体文化祭の何が雨をそこまで惹きつけるのか。
エナカはここまでくいついてくる雨はめずらしいな、と思った。
「来ないよ。」
「え?」
「うちの親、多分来ない。」
エナカがそう言えば雨は少し驚いた顔をした。