佳き日に
そうして大人になるんでしょうが
[1]
琥珀を乗せて走る車は、何事もなかったかのように街を走り抜けていく。
衝突によりあちこちがへこみ、見るも無惨な見た目なのに普通に走れるみたいだ。
車ってすごいんだな。
琥珀はこんな状況でも意外と取り乱すことはなかった。
「死んでなかったぜ、梔子。」
助手席に乗っていた栗色の髪の子が雪にそう話しかけた。
雪はそうか、と返しただけでそれ以上は何も言わない。
それから車内は謎の沈黙。
一緒の車に乗ってるけど、この三人、あんまり仲よくない?
琥珀はそう思いチラリと隣に座る青年を見た。
少し長めの黒髪が目にかかっている。
どこかぼんやりとした様子で、心ここにあらずだ。
ぽりぽりと少しずつバナナチップスを食べている。
これじゃ埒があかない。
琥珀は意を決して口を開く。
「あの、これは、何事なんですか。」
琥珀の言葉に反応したのか、助手席の青年がこちらを振り向く。
「閏。一から教えてやってくれ。」
運転している雪はぶっきらぼうにそう言う。
閏とはどちらの青年の名前なのだろうか、と琥珀は思った。
「あ、はい。柳琥珀さんですよね。閏です。よろしくお願いします。」
どうやらバナナチップスを食べていた青年が閏らしい。
「こちらこそ。」
真面目そうで、この中では一番まともそうだ。
一番危なそうなのは栗色の人だな、と琥珀は勝手に考える。
あのつり上がった目もそうだが、なによりもさっきナイフにべっとりとついた血を拭っていたのが印象深い。
車内に入ったときに感じた血の匂いは彼のナイフが原因だろう。