佳き日に
[6]
梔子が大勝負にでた。
赤い女に喧嘩を売った。
あれから連絡がこないということは梔子は勝負に負けたのだろうか、と椿は思った。
引き出しからマッチを取り出し、煙草に火を点ける。
体に悪いのでめったなことがない限り吸わないようにしていた。
久々の味だ。
「煙草、体に悪いよ。」
今まで何か考え込んでいた菘が顔をこちらに向けむすっと言った。
そうだった、菘が煙草を嫌がるから吸う回数を減らしたんだった、と椿は思い出す。
昔、主流煙だ副流煙だで説教されたことがあった。
すっかり忘れていた。
「たまに吸うだけだから。」
そう言って曖昧に笑ってみても、菘はむすっとした顔のままだった。
彼女もあと一年経てば煙草を吸える年になる。
絶対吸わないだろうけど。
若いうちは少しくらい冒険したっていいのになぁ、と椿は思う。
菘は真面目ゆえに生きるのが下手というか。
もっと肩の力を抜いて生きれば楽しいだろうに。
「椿、これからどうするの?」
「赤い女について情報を集める。」
菘と会話しながら椿は携帯に番号を打ち込んでゆく。
つながる先は、殺し屋の業界ではかなり大御所。
赤い女がでてくる前から非合法なことをして儲けていた組織。
その組織の幹部は椿よりふた周りも上で、業界でもかなり恐れられている。
普通に電話できるという椿は、実はかなり少数派だ。
「もしもし。あたし、椿、あたし、あんたに貸しあったよね?」
かなりくだけた口調で話す椿。
貸し、とは一年程前にこの組織にスパイがいることを教えて上げたのだ。