佳き日に




電話の向こうから、低く貫禄がある声が聞こえた。

「何してほしいんだ?」

「赤い女について、何か知ってる?」

しばしの沈黙が落ちる。
殺し屋の業界にいた以上、少なからず何らかの接点はあったはずだ、と椿は踏んでいたが、ハズレだったのだろうか。

気持ちが少し落胆しかけたとき、ようやく返事が来た。

「名前なら、知ってる。」

「何?」

「茜、だ。」

茜。

椿は急いでパソコンに打ち込む。

それから二言三言話したが、それ以上は知らないようだったので、電話を切った。

茜か。
確認するように椿は呟く。

赤い女が活動していた頃椿は四歳だった。
だから、赤い女について聞いたことの記憶はほとんどないし、その頃生きていたメモリーズは大部分がもう死んでいる。
と、いうより、赤い女に殺された。

だからこそ、赤い女について情報を集めたいときは人間に聞くのが一番いい。

赤い女に殺されることもなく二十一年前生き残った人間達。

「赤い女、茜って名前なの?」

電話を聞いていたのであろう菘。
じっとこちらを見つめてくる目は茶色い。

「調べよう。全国の茜って名前の人、全員洗いざらい調べよう。」

そう言い、菘は身を乗り出してきた。

「全国に何人茜って人がいると思ってるの。」

椿は苦笑いしながらも、パソコンのウインドウを切り替えて、早速調べ始めた。




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