佳き日に
「ほら、俺あれだし。あんたの携帯ぶつかって落とさせたし。」
琴が自分を指さしながらそう言った。
雪はどこからか段ボールを持ってきてそれの開封作業に取りかかっている。
琥珀はぱちぱちとまばたきを繰り返した。
つまり、私が今日バスを降りたら携帯を落として壊した。
私に携帯を落とさせたのはこの琴とかいう人で。
全部故意だったわけで。
一連の流れを理解した琥珀の顔は引きつっていた。
なんだろう、この気持ち。
例えるならば、最近買ったばかりの本を貸して返ってきたらページに折り目がついていたときのあの気持ち。
今回はそれよりももっとたちが悪い。
「携帯買ったばっかだったんですけど。」
怒りを極力抑えようと思ったのだが、抑えきれなかったようだ。
「は?何怒ってるんだし。」
琴がするどい目つきで琥珀を睨む。
「あぁ、もう、琴、落ち着いてください。琥珀さんも。」
「こいつが怒ってきたんだし。」
「携帯壊されたら誰だって怒りますよ!」
閏がなだめるも状況は芳しくなく、琥珀と琴が睨み合う。
いつまでも睨み合っていそうな二人の様子に、閏はため息をつく。
「琴、今回は僕らが悪いですから。謝りましょう。」
やがて二人をなだめることを諦めたのか、この喧嘩を一刻も早く終わらせるという目的に変えたようだ。
しかし、琴はそれに素直に応じるような性格ではない。
「やだし!こいつに謝るとか絶対やだ!」
「子どもかあんたは!」
キシャーッと猫のように威嚇する琴の行動に琥珀も怒り半分、呆れ半分で応じる。