佳き日に
[7]
まじありえねぇ。
琴はさっきからその言葉を何度も呟いてはイライラを募らせていた。
隣を歩く閏の表情に疲れが見える。
二時頃になり、気温もだいぶ高くなっていた。
琴はポケットに入れておいたメモを取り出す。
にんじん、たまねき、じゃがいも、米、と丸っこい字で書いてある。
肉、と書いた上に斜線が引いてあるのは琴のせいだ。
「肉、食べるのもいいけど太ってドレス着れなくなっても知らねーから。」
「うっさい。」
買い物リストを琥珀が書いているときにもそんな会話があって、危うくまた喧嘩になりそうだった。
慌てて閏が止めてくれたからよかったものを。
「ありえねーし。」
琴はまた同じ言葉を呟く。
何度考えても腑に落ちないのだ。
だって、普通、女の子はある程度は料理できるはずだろう。
いや、出来ない女の子も少なくはないだろうがそういった場合、恥ずかしげに俯いて「出来ないんです・・・。」と申し訳なさそうに言うものだろう。
女の子って、そーゆーもんじゃねぇの?
一般的な見解はどうであれ、琴はそうだと思っていた。
というか、そんな女の子像を抱いていた。
奥ゆかしくて、優しくて、ふわふわしてて。
そんな理想をいとも簡単にぶち壊してくれたのがさっき出会ったばかりの少女、柳琥珀だった。
「あー、私、料理は無理です。」
雪の問いに誰よりも早く彼女は口を開いた。
「え?」
雪と、琴と、閏がそう口にしたのもほぼ同時だった。
三人とも、女の子だから柳琥珀は料理が出来るものだと思い込んでいたのだ。