佳き日に
「体力をつけるだけじゃ鉛丹と桔梗どころかそこらの雑魚の殺し屋にも勝てねぇんじゃね。」
「何もしないよりはマシだろ。」
雪はそう言うが琴にはそうは思えなかった。
柳琥珀、あいつ、いつまで生きられっかな。
淡々とそんなことを思っていたら、閏が皿洗いを終え戻ってきた。
「すいません、待っていてもらって。」
皿洗いには慣れていないのか、閏のカーディガンには水滴の染みがところどころに見える。
琴の知る限りでは、閏は普段食事らしい食事をしていない。
よくある栄養食品やゼリー状の補給食のような短時間に食べられるものしか食べているところを見た事が無い。
世の中にはもっと美味しいものがあるんだぞ、と琴が言っても閏は取り合わなかった。
「食事なんて栄養を補給できればいいじゃないですか。」
あっさりとそう言ってのけたのだ。
割り切り過ぎだと思うがそれでも生きていられるんだからまぁいいか、とそのときの琴は納得した。
閏が琴と雪の向かいの椅子に腰掛けたところで、雪はパタンと本を閉じた。
「一回、利害関係を確認しておきたい。」
いつも通り淡々と紡がれた雪の言葉を聞いて琴と閏は顔を見合わせた。
閏の顔には困惑の色が少しだけ見えた。
「えっと、雪先輩、それは具体的にはどういうことですか?」
「具体的、というか、じゃあ、俺の目的を先に言っておくな。」
無表情にそう言う雪に対して言いたい事はたくさんあった。
でも、今口を出すのは良くないだろうと思い琴は口をつぐむ。