佳き日に
「あと、お前も気をつけた方がいいぞ。狙われてる。」
「メモリーズに?」
「あぁ。まだ特定できていないんだが、裏の人間にコソコソ嗅ぎ回っている奴がいるって連絡があった。俺らも出来る限りのことはしておくが、最悪の場合を想定しておけ。」
最悪の場合を想定して動け。
この男が昔仕事前にエナカにいつも言っていた言葉だ。
懐かしいな、と思った。
「ありがとう、せんべい。」
久々に、この男の名前を呼んだ。
名前といっても、秘密警察は仲間同士でも自分の素性は一切明かさないのでコードネームだが。
この男はいつもせんべいを食べていたのでコードネームがせんべいになったのだ。
メモリーズを尾行している緊張の時間でも、無線でせんべいをとりコードネームを言うときはいつも笑ってしまった。
「懐かしいな、それ。」
くしゃっと、黄色い歯を見せて悲しそうに男は笑った。
「今は、T2ってコードネームなんだ。」
変わらないものなんかないんだって、分かっていたはずなのに。
エナカは少し泣きそうになってしまった。