佳き日に
というか、尾行中は尾行に集中させてほしい。
いつの間にか柳琥珀との距離がけっこうできてしまっていて、桔梗は急いで追いかけた。
鉛丹も後を追いかけてくる。
「たとえ罠だったとしてもさ、こんなチャンスめったにねーぞ。」
「柳琥珀を殺すチャンスですか?」
「おぅ。萩と灰神楽の手柄奪ってやろーぜ!」
「兄さんそんな爽やかな笑顔でも言ってることなかなか酷いですよ。」
そんな話をしていたら、ザワザワと人の声が聞こえた。
柳琥珀はもう大通りの近くまで来ているのだ。
「どうします?人通りの多い所に出られたらめんどうですが。」
「止めるぞ。」
「分かりました。」
鉛丹と桔梗は音をたてずに走り出す。
どんどん柳琥珀との距離が縮まる。
すぐに殺すつもりはない。
気絶させて、別の場所に連れて行ってから詳しく話を聞き出そう、と桔梗は思っていた。
拷問のようなことはあまりしたくないが。
「気絶させればいいんだよな?」
「そうです。」
もう柳琥珀との距離が1mもないくらいになって、鉛丹は手を伸ばす。
その時、グラリと柳琥珀の姿が揺らいだ。
あれ、と思う間もなく、鉛丹の足先に鋭い痛みが走った。