佳き日に
魔法使いは犬になる
[2]
桔梗が次で降りると言ったので、鉛丹は電光掲示板を見る。
そこに映し出されていたのは福島市ではない土地の名前だった。
郡山?聞いたこともない地名だ。
「福島じゃないじゃねえか。」
「一応そこも福島県ですよ。」
駅の売店で買っておいた玄米茶を飲みながら桔梗はそう言う。
「紛らわしいな。福島駅で降りればいいじゃねえか。」
「郡山でもいいでしょう、短期間の滞在なんですから。」
めんどくさそうな桔梗の物言い。
そこに何か隠しているような気がして、鉛丹はさらに詰め寄る。
「なんで郡山なんだよ。」
少し強気で問いつめれば、桔梗は黙った。
数秒なんとも言えないような顔をしてから、ボソッと呟く。
「この前、テレビで、特集やってたんです。」
「は?何の?」
「プラネタリウムの。駅前のビルに、あるらしいです。」
茶色いビー玉のような目が、何か文句あるか、というように鉛丹を見つめてくる。
プラネタリウム。
確か、あれだ。
頭上に星がたくさんあるやつ。
鉛丹は数少ない知識を総動員してプラネタリウムを思い浮かべる。
桔梗はプラネタリウムを見たことがないんだっけか、と記憶を探る。
ないな、と今までの人生を振り返りそう思った。
よく考えてみたら鉛丹自身も見たことがなかった。
確かに、少し見てみたいな。
星の海だっけか。
気がつけば鉛丹は桔梗に同意していた。