佳き日に




『四月三十日。
手紙を置いてきた。
もう古本屋ではなかったが、表札はそのままだった。
雪と遥には悪いが俺は先に逝くことにする。
そうすれば、茜はメモリーズを殺すことはもうなくなるだろう。
父親らしいことは何も出来なかったが、二人には長生きしてほしい。

なんとなく立ち寄った茜の通っていた中学校では、桜が散っていてとてもきれいだった。』


『四月三十日、追記。
なんとなく、もう少し書きたくなったので書く。
色々とうまくいかない人生だったけど、俺は多分後悔はしていない。
もう一度やり直せるとしても、また茜に会いに行くだろう。
茜が自殺しようとすれば、また助けにいくだろう。
俺がしたことは報われないと分かっていても、多分、同じことをするだろう。
だから、後悔はない。』


そのページの下に、小さく、琴も危うく見落としそうになるくらいの文字が書いてあった。


『どうか、この日記を見てくれた人がいるならば、茜が幸せかどうか確かめてほしい。』


その言葉でストン、と今まで胸につかえていたものが落ちた気がした。


雨は、自ら赤い女に殺されにいった。

そして雪が本当の赤い女を捜しているのもきっと、雨の想いが報われたかどうか確かめたいだけなのだろう。

自己満足、自己犠牲。

でも、嫌いじゃない。


琴は日記を閉じた。


窓の外から、秋の風の音と、鳥の鳴き声が聞こえた。


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