佳き日に
[5]



殺風景な部屋で、閏は銃に弾丸を詰めていた。

カチャ、カチャ、と一定のリズムが部屋に響く。
何百回とくり返してきた作業。
これをしている時が、一番冷静になれる、と閏は思う。

閏は10歳から銃を使い始めている。

始めは普通の殺し屋としてなんとか生きてきた。
だが、閏は銃の撃ち合いのような戦い方が好きではなかった。
無駄が多すぎる、といつも感じた。

そんな閏に転機が訪れたのは5年前の13歳の時。
きっかけは本当に些細なことだった。

椿の店に情報売っている時。

「あんたの性格は狙撃手向きよね。」

椿が閏に言ったその一言は、なんだか説得力があった。
閏も今の自分の戦い方が好きではなかったので、椿のその言葉を信じて試しに狙撃に手を出してみた。
これが予想以上にしっくりきたのである。

息を潜めて狙いを定める。
一つの弾丸に全神経を集中させる。
その緊迫した状態が、閏は好きだった。
無駄なことはせず、じっくり準備し、一発でしとめる。

綺麗な仕事だ、と閏は思う。
一日の大半をターゲットの観察に費やすので、一つのことから色々な情報を読み取れるようになった。
今ではそれを生かして情報屋も兼業してるくらいだ。
忙しくもなった。

閏がそんな風に物思いにふけってると、部屋の隅に置いてあった携帯が鳴った。
着信。

表示されたのは懐かしい名前だった。


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