佳き日に



そんなふうに片手で茜に銃を向けているというのに、空いている手で器用に男は電話をかけていた。

「あ、もしもし‼接触者が見つかったよ。今運んでる途中。」

男の声はやけに嬉々としていた。
突然茜の方を向くと、ぐいっと顔を近づけ茜の目を覗き込んできた。
茜も思わず後ずさる。

「んー、人間みたいだね。でも雨の直筆らしきメモもあったし、けっこう大物かもよ。」

そう言うと男は電話を切った。
その様子は大分ご機嫌だ。
茜はギロっと男を睨む。

「どういうつもりですか?」

「なにが?」

「だから、こんなふうに銃を向けたり、拉致したりしてることですよ。なんのつもりですか?」

男は茜に銃を向けたまま降ろさない。

「メモリーズ関係の奴らに隙を見せたらこっちが殺られる。俺は死にたくないからね。」

「メモリーズ?」

聞きなれない言葉に茜は思わずオウム返ししてしまう。

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