佳き日に



「あのメモを見たとき、なんかこう、ビビッときたんです。うまく言えないんですけど、私が思い出せない大事なことが、あのメモに書いてある気がするんです。」

サングラスをかけた男は運転しているもう一人の方に何か耳打ちした。
空気が少し不穏になる。

「君は、家族が死んだの?」

「え、はい。」

「死因は?」

「自動車事故らしいです。」

「いつ、どこで?」

「一ヶ月くらい前に……」

あれ、と茜はまた違和感を感じた。

家族の死について詳しいことが全く分からないのだ。

事故で死んだ、という大まかなことは分かるのに。
というかそもそも、病院で入院しているはずの弟がなんで車に乗っていたのか。


茜が難しい顔をしていると、男が銃を降ろした。

そしてまた電話をかける。
今度は落胆した声を出して。

「あぁ、もしもし。ごめん、訂正。接触者かつ被害者だった。うん、残念だけどごっそり盗られてる。」

「盗られてる?」

男は茜にチラッと目配せし、後で教えるから、というように口を動かした。

それから車が向かった先は高級そうなマンションだった。





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