佳き日に
[4:25years ago]
カッ、カッ、と靴の威厳のある音が白い大理石の床に反響する。
茜は買ったばかりのキッチリしたスーツを着て、緊張した面持ちで歩く。
壁に取り付けてあるパネルがウィーンと音を出す。
指をそこに当てれば、ひやりとした感覚。
『指紋認証を開始します。しばらくそのままでお待ちください。』
機械の音声と共に、キィィィと切羽詰まったようにパネルが蛍光に変わる。
数秒もしないうちに横に取り付けてあった扉が開く。
「入れ。」
奥から、少し低めの声がした。
茜はゆっくりと足を動かす。
カツ、とまた靴の音。
だが、もうそこに威厳は感じられない。
部屋の中は真っ暗だった。
先程の声の主がどこにいるのかさえもつかめない。
「悪いが、暗闇の中で話させてもらう。」
また、ズンっとくる低い声。
茜は一つ頷く。
そのとき、唇が乾燥していることに気づいた。