佳き日に
「今はメモリーズが二百人でその倍の人数でおさえていて精一杯の状況だ。だが、この構図がいつまでも保つとは限らない。」
これから先も五百人を費やし続ければ人は減っていく。
そうなれば自然と人間側の戦力は落ち、メモリーズは増えていくだろう。
三百人、五百人、八百人と。
「政府が何よりも恐れているのはメモリーズの武力によるテロや反乱だ。人間よりも身体能力が高いメモリーズが武器を持ち大勢で来られたら幾多の犠牲が出る。大都市を中心に狙われたら収集がつかなくなるだろう。」
だから、政府はメモリーズを神経質なまでに警戒する。
犠牲、その言葉に茜は弟の顔を思い出す。
二十三歳になった茜と、子供のまま止まった弟。
これも、犠牲のうちの一つなのだろうか。
「あと二十五年経ったら、つまり、三十年の期限が切れたら、どうするんですか?」
「そのときは政府がメモリーズ征伐を担当することになる。恐らく、かなりリスクの高いやり方だろうな。民間人の死人もたくさん出るような。」
悪寒がした。
茜はギュッと手に力をこめる。
高いリスクに、たくさんの犠牲を払って、それで、本当に安全は手にはいるのか。
「手段を選ばない政府のやり方が気に食わないなら、一人でも多くのメモリーズを殺せ。」
ひやりとした声。
冷たい夜だった。