佳き日に
目の前には、堂々とポケットに手を入れ立つ雪。
それに向かい合うように、顔の右側を真っ赤に腫れさせ、口から血を流す萩がいた。
じわじわと、雪との距離を計るように動きながら、その額には大粒の汗が浮かんでいた。
威圧感が違う、と琥珀は思った。
人が手にとまった蚊を叩き殺すように、なんてことなく雪は萩を殺せるのだろう。
そう思えるくらい、力の差がヒシヒシと伝わる。
仮に、萩が手と足に被弾していなかったとしても、この構図は変わらないだろう。
ようやく、琥珀の呼吸は落ち着いてきたが、目の前で行われる命の駆け引きの場面に心臓はやけに速く音をたてていく。
「雪。」
「なんだ?」
「ここがいい場所ってどういうこと?」
萩は黙ったまま、こちらの様子を窺っている。
その目はもう、追い詰められた者の目だった。