佳き日に
僕らは世界に何も残せない
[3]
椿の根城に警察が襲撃してから二日目。
ある程度事態が沈静化してから椿のところには戻ろうと菘は考えていた。
だから警察がいなくなるまでの間はカプセルホテル泊まりだ。
菘はガラス一枚を隔てた先の廊下を見る。
黒く光る革靴を履いた足がフラついているのが見える。
酔っ払いか、と菘はゲンナリした。
羽織っていた大きめのコートを脱ぎ、菘は布団に潜り込む。
着替えは明日の朝、コンビニのトイレでも済ませようと思った。
ピロリン、ピロリン、と携帯電話が着信を知らせる。
画面を見たら、知らない番号。
黙ってそのまま切る。
それでも電話がかかってくるたび、携帯はゆるく震える。