佳き日に
[7]
「あ。」
狙ったわけではないが、丸一日部屋から出てこなかった琥珀とトイレの前で鉢合わせした。
トイレから出ようとする琥珀と、入ろうとする琴。
何か言わなくちゃいけない、という思いに駆られ琴はそこから動けなくなった。
琥珀が不思議そうに見上げてくる。
意外なことに、琥珀の表情はいつも通りだった。
眠れずに隈ができてしまうということもなかったようだ。
人の死を見たショックで何も口にできず、やつれてしまうんじゃないかと思っていたのは杞憂だったようだ。
「お前さ、」
「何?」
気付いたら琥珀に話しかけていた
琥珀に話したいことなど何も考えていなかったので、琴はただ頭に浮かんだことを口に出した。
「寝てないんじゃないかと思ってたし。」
「へ、何で?」
「死体見た日は眠れないって奴がほとんどだし。」
「あぁ、そっか。」
そうだよね、なんて呟きながら考えるように上を向く琥珀。