佳き日に




「でも分かったこともあるんだよ。」

「何だし。」

「少なくとも私は、琴たちのことは嫌いじゃない。」

ニッと白い歯を見せて琥珀は笑った。
こいつ、歯並びあんまり良くないんだな、とそこで琴は思った。
それ以外に、何を思えばいいのか分からなかった。

「殺し屋っていうのは怖いけど、でも琴のことを嫌いだとは思わなかった。」

ふーっと音にならない声を漏らす。
なんとも人間らしい、滑稽な考えだと思った。

「……琥珀って馬鹿だし。」

胸に何かつかえているような気がして、それ以上言えなかった。
琴のそんな皮肉にも琥珀はふにゃっと笑って受け流す。

「人の心って不思議だよね。」

そんな簡単なことじゃない、そんな安直な考えで終わらせていい話じゃない。
人の命を奪ってきた奴らを、そんなあっさり受け入れるべきじゃない。
そう言いたかったが、琴は言葉に出来なかった。

心の中で琥珀の考えを非難していても、その愚かさに救われた部分もある。

それを認めたくなくて、琴は大きな音をたててトイレのドアを閉めた。


< 349 / 627 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop