佳き日に
隣では鼻が高くいかにも生意気そうな男が茜と上司とのやりとりを見ていた。
嫌味ったらしくふん、と鼻を鳴らし口を出してきた。
「別になんでもいいじゃないですか。自分の立場に自覚がない意識の低い奴はすぐ死ぬんですから。」
茜と同時期に秘密警察に入ってきたであろうその男。
ほどよく筋肉がついており、筆記試験でもトップクラスの成績を修めていたはずだ。
その実力の高さに比例してプライドも高いのだろう。
男のぎょろりとした目が茜を見つめる。
腕に止まった蚊を見るようなその目に、胃のあたりがムカムカした。
頭が良くても、友達にはなりたくないなって思われる人にはなりたくないよね。
七年ほど前、県内で一番偏差値が高い高校へ進んだ子がそうこぼしていたことを思い出した。
赤いふんわりとしたドレスの裾を持ち上げ、男から視線を逸らし歩き出す。
やけにツルツルしたドレスの生地が手に馴染まなかった。