佳き日に
「相手は三人。こっちも三人だから、一人が一人ずつ担当な。いいか、最悪の場合を想定して動けよ。」
数十分後、車を何とも怪しげなバーの前に停め、上司が言ったことはそれだけだった。
大雑把すぎる、茜だけじゃなく、もう一人のギョロ目の男もそう思ったはずだが、相手は上司なので何も言えない。
「じゃ、行くぞ。」
上司はそれだけ言うと茜たちの確認も取らずに扉を開ける。
わざわざ正面から入るとか馬鹿か!と怒る暇もなかった。
ギィッと鈍い音と共に、酒と煙草の匂いが襲ってくる。
その匂いに顔を顰めた瞬間、カウンターの奥にいた男が腕を振り上げるのを視界の隅で捉えた。
反射的に横に飛んだ。
カッと着地の瞬間に踵のヒールが軽快な音を鳴らす。
「うげっ。」
逃げ遅れたのか、ギョロ目の男の腹にナイフが突き刺さっていた。
どくどくと赤い血が滴り落ちていく。
つい数十分前まで嫌味ったらしく茜を見ていたその目が曇った。
バァンッと何発かの銃声が響き人が走り回り、バーの中は混乱状態になる。