佳き日に
なにはともあれ、茜にとってこの状況はラッキーだ。
身をよじり、後ろのリボンに潜めておいた小瓶を片手に持つ。
茜のその動作を逃げようと足掻いていると勘違いしたのか、男が下品に笑う。
「逃げようとしても無駄だよ。」
「だろうね。」
カチャン、と音がして瓶が床に落ちる。
足を何回か動かし瓶の位置を確認した。
瓶はまだ割れていないようだ。
暗闇に目が慣れてきて、ぼんやりとだが男の顔が見える。
「今のは何の音だ?」
「さぁ?」
茜は答えると同時に足を真下に、瓶を踏み潰した。
瓶が粉々に割れた手応えがあった。
喉のあたりに力をいれ、息を止める。
一瞬男が困惑したのを見逃さず男の目を指で突く。
いわゆる目潰しだ。
「チッ。」
男が舌打ちして反撃しようとしてきたのが分かる。
だが、もう遅い。
男の足がふらつき、ドサリと膝から崩れる。
ヒューヒューとか細い呼吸音。
じきにその音も止まるだろう。