佳き日に
茜が放った有毒ガスは呼吸が出来ず窒息死する気体だ。
ガスが漏れれば周りに大きな被害を与えるのであまり使いたくなかったが、銃のない茜が男を殺す術はこれしかなかった。
キイッ、と扉を開けば、外の明るさに茜は目を細めた。
気体が漏れぬようすぐ扉を閉め、耳を傾ける。
か細い呼吸音も聞こえなくなったところで素早く扉を開け死体を引きずり出した。
気持ち悪い色に変色した死体と、海という最初に殺した死体を担ぎバーの外に出る。
「あれ、お前生きてたのか。」
外に出た瞬間、せんべいを食べながら上司がそんなことを言った。
殴ってやろうかと思ったがやめておく。
返り血に塗れた上司の周りには、五体ほど死体が転がっている。
中にはもう半分くらいゴミに変わっている死体もあった。
「わりぃな、敵は三人だと思ってたけど、七人だった。」
たった一人で五人殺したのか。
認めたくはないが、この血まみれでせんべいを食べる上司の実力は確からしい。
「お前は二人殺したのか。上出来じゃねぇか。」
茜が引きずってきた二人の男の死体を見て上司はそう言い笑う。
褒めてるつもりなのだろうか。
「あー、なんでそのでかい男の顔が緑色になってるんだ?」
「窒息死したからです。」
「首締めて殺したのか?」
「いえ、それ専用の気体で。」
上司はなんとも理解できないような表情をした。
初めて上司を困らせた、茜の口角が上がる。
「私、自己紹介の時言ったじゃないですか。」
特技は、息を止めること。