佳き日に




[1]



黒い皮の表紙の年期の入った本を見つけた。
けっこう分厚い。

琥珀はズシリとした重さに驚きながらその本を眺めた。
表紙には題名、ましてや文字の一つも書いてない。

誰の本なのだろう。
この家で読書家といったら雪くらいなのでおそらく雪なのだろうが。

ずっと昔にお父さんの部屋に置いてあった広辞苑の半分くらいの重さ。

琥珀の心に少しの好奇心が生まれた。
このタイトルも書いていない本は、一体どんなことが書いてあるのだろうか。
思い切って開いてみる。
古い紙の匂いが鼻腔をくすぐる。


『一月一日。
新年。
世間では日記を書くことが流行っているらしいので俺も始めてみる。
今日は雪が降った。』


誰かの日記らしい。
紺色のインクで書かれた文字はなんとなく素っ気なかった。

それよりも気になったのはこの日記の分厚さだ。
ざっと見で十五年近くは書けるんじゃないかと思うほど厚い。



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