佳き日に




それから黙々と餃子の皮を包む作業をしながら琥珀は考えた。
感想って言われても、物語じゃないのに。
いや、でもアンネの日記で読書感想文を書いたこともあったな。
これから読むのはアンネじゃなくて雨の日記だけど。

ふとそこで気になったことがあり琥珀は手を止める。


「雪はどうしてあの日記を持っていたの?」

少し形の崩れた餃子を皿の上に置いて雪はこちらに顔を向けた。


「あの日記は雨って人のなんでしょ?どうして雪が持ってるの?」

「雨は俺の父親だ。」

「あ、そうなんだ。」

通りであの日記に年期が入っているわけだ。
そこで琥珀は思い出す。

そうだ、雨という名前を聞いたのはファミレスで鉛丹と桔梗と話したときだ。
あれからまだ一ヶ月も経っていないのに琥珀はすごく懐かしく思えた。


「雪のお父さんは度胸があるっていうか、堂々とした人だったんだね。」

「は?」

琥珀が漏らした言葉に反応したのは琴だった。


「だって日記を他人に見せるなんて、私は絶対出来ないよ。そもそも日記って人に見せるために書くものじゃないだろうし。」

私だったら死ぬ前に燃やすか隠すな、と琥珀は思う。

ただ日々の面白かったテレビ番組や変な先生のことなど書いてあるだけだったらまだいい。
だけど日記というからには人に言えない悩みや初々しい恋の想いなども書いてあるはずだ。
もちろん、醜い感情も。

それを他人に見られるなんて、絶対嫌だ。
家族にだって見せたくない。




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