佳き日に






「お前のコードネームは赤だからな。」

「えっ。もう決まってるんですか?」

「俺が決めた。文句あるか?」

「いえ。全然。」


茜は俯き自分の格好を見た。
フリルがたくさん付いた赤いドレス。
せんべいという上司はきっとこの色を見て決めたのだろう。

まぁ、「せんべい」よりはマシか、と茜は前向きに考えた。

そこでふと前を見ると、せんべいがバックミラー越しにこちらを見ていることに気付いた。


「お前さ、なんで秘密警察に入ろうと思ったんだ?」

「なんでって?」

「いや、お前のプロフィールに引き抜きじゃなくて志願って書いてあったから。」

メモリーズ関係のことは一般人には極秘にしてるし、警察でも知っているのなんてほんの一握りだ。


一般人のお前が、どうしてメモリーズのことを知っていたんだ?

せんべいのその問いに茜は一瞬口をつぐむ。


「記憶を盗られたんです。」

「はぁ?そんなの誰だってそうだろ。メモリーズは会う奴は老若男女問わず盗んでるぞ。」

せんべいが言っているのは普通のメモリーズのことだろう。
身体能力を上げるためだけに盗むメモリーズ。

忘れてもいい、日常の些細な記憶しか盗めないメモリーズ。


「違います。雨に一年分盗られたんです。」

「あぁ、雨か。」

せんべいが納得しているのを見るに雨が盗む記憶を選べるというのも有名なのだろう。




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