佳き日に



桔梗が状況を理解しきれず目をパチクリさせていると琥珀が次々と話してきた。


「桔梗は勉強頑張ってるから文房具にしたんだよ。で、始めシャーペンだと思ってたらノック式の消しゴム買っちゃってさー、あ、でもこれはちゃんとシャーペンだよ。買い直したの。」

自分の失敗談をケラケラと笑いながら話す琥珀。
その笑顔に他意はなさそうだ。
悪意も。

ただ、純粋に桔梗の誕生日を祝ってくれているのだろう。

未だ信じられない気持ちを抱えたまま桔梗は琥珀と共に飲み物を注文する。
あまり愛想の良くない店員が「少々お待ちください。」と言い店の奥へと消えていったのを見届けてから、琥珀がポツリと呟いた。


「私、敵の立場じゃなかったら桔梗と友達になりたかったよ。」

それを聞いて、桔梗はクスリと笑っていた。

甘いな、と思う。
そして同時に確信した。
彼女はやはり、ただの一般人だ。
何の戦力にもならない、ただの十六歳の少女。

今なら、殺せる、とも思った。

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