佳き日に




彼女を守るはずの雪はまだ席についていて大分距離は離れている。

この場所で殺すのはまずいから一瞬で気絶させて別の場所で殺すか。
琥珀は店員が遅いと店の奥を覗き込んでいる。

今なら、その首もとに手刀を一発。
周りの人には見えない速さで叩き込めば気絶させられるだろう。

桔梗はゴクリと唾を飲み込み手を握る。

いける、やるか?

周りの音が聞こえなくなる。

手を振り上げ、足を踏み出す。


一瞬、カサッという音がした。

桔梗の頭が真っ白になる。


「ようやくきたね。戻ろうか。」

琥珀がトレーを持って振り返ってきた。
桔梗は曖昧に頷く。

結局、琥珀を気絶させることはできなかった。

足を踏み出したとき、目に入ったのは琥珀からのプレゼント。
ポケットからはみ出たそれにより、体が動かなかった。

殺したくない。
そう、思ってしまっていた。

まさか自分がそんな甘っちょろいことを考えるなんて驚きだ。





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