佳き日に




運ばれてきたビールをグイッと飲む。


「大丈夫。それよりも何で急に呼び出したの?」

枝豆ひとつ、と頼んだせんべい。


「仕事が入ってな。」

「そんなの仕事中に言ってよ。」

お酒を呑んでいるときまで仕事のことは持ち込みたくない、と茜は顔をしかめた。


「いや、けっこうわけわかんねぇっつーか。変な話でよ。」

「何が?」

「雨がここから数km先の港町にいるって情報が入ったんだ。信用できるスジからな。」

「本当に!?」

茜は思わずといったふうに前のめりになる。

これはチャンスだ。
長年の謎を解く滅多にないチャンス。


「まぁお前がこの仕事を受けるってことは分かっていた。ただな、これを聞いてくれ。」

そう言ってせんべいが取り出したのは小さなラジカセ。

スタートボタンを押すと、仕事中の茜やせんべいの声が聞こえてきた。
新人にメモリーズについて教えているところらしい。

幸いにも居酒屋は騒がしく茜とせんべいの席のラジカセから流れる音に気を配る人はいなかったが。

メモリーズ、という単語が何度もでてくるのでこれは一般人のいる所では流さない方がいいだろう。




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