佳き日に





[2]



カレー、シーフード、普通の味。

鉛丹はカップラーメンをそれぞれ四つずつ買い物カゴの中へ入れていった。
警察が本格的に動き出す前に必要なものは買っておいた方がいいだろう。


「お湯がなくちゃ食べられないじゃないですか、それ。」

桔梗はそう言いながらカゴの中にカルシウムだとか鉄分だとか書かれた栄養補給食を入れてゆく。

鉛丹と桔梗は今近所の大型ドラッグストアに来ている。

ドラッグストアなんていうくらいだから薬しか売っていないと思っていたが、そうではないようだ。

鉛丹は見慣れない缶詰のパンなどをカゴに入れる。


「来週はもうこの街を出てるはずですから荷物の整理を進めておいてください。」

そう言った桔梗の横顔を鉛丹は見る。


「お前はそれでいいのか?」

鉛丹は真っ直ぐ桔梗の茶色いビー玉のような目を見た。
しかし桔梗は目を合わせようとはしなかった。


「いいも何も、あれ以外何かいいやり方があるんですか?」

自分のつま先を見ているのだろうか。
顔を上げない桔梗の瞳に揺らぎが見えた。


「兄さんは生き延びたくないんですか?」

鉛丹はゆるく首を振る。
ようやく顔を上げた桔梗は泣きそうに見えた。




< 396 / 627 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop