佳き日に




茜は冷たい銃を握る。
これからメモリーズ最強と謳われた雨と戦うことになる。
生き延びれるだろうか。
可能性が低いことなど分かり切っている。

だからこそ、死ぬ前に茜の記憶と家族の死について疑問を解消しておきたいのだ。

茜が雨を殺すことができれば記憶も戻るのだが、希望論だろう。


ふぅ、とため息をついたとき。

ズリッと、後ろで誰かの歩く気配がした。

茜は素早い動きで後ろを振り返り銃を構えた。


「おい、待てよ。」

立っていたのは、三十代後半くらいの男だった。
黒い髪に、黒いメガネ。
茶色い目は、メモリーズ特有のもの。

銃を構えたままの茜を困ったように微笑み見つめている。


「あなたが雨?」

茜がそう聞けば男は頷く。

見たところ武器を持っている様子はなく、茜を攻撃する気配もない。
茜はぐっと銃を握る。

雨はその茶色い双眸をまっすぐ茜に向けていた。

そこに暖かさが見え隠れするのは気のせいだろうか。


「その銃で、俺を撃っても構わない。」

雨がこぼした言葉に茜は目を見開く。

拳銃を持つ手が知らず知らずのうちに震えてしまった。
何を言っているのだろう、この目の前の雨という男は。



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