佳き日に
遅い。
気付くのが遅い。
もう何もかも間に合わない。
全部終わってしまった。
終わらせてしまったんだ、私が。
実感すると茜は本格的に声をあげ泣きじゃくった。
気持ちのままに雨の遺体を抱きしめる。
まだ暖かいことが、余計につらかった。
全部、思い出した。
あの、最後の日の雨の言葉も。
「死なないでくれ。生きていてほしい。」
ビルの屋上で、泣きそうな顔でそう言った雨。
蘇った記憶は色褪せてはおらず、鮮やかなままだ。
「お前が幸せならそれでいいんだ。」
笑う必要なんてないのに、壊れそうな笑みを浮かべる雨。
雨もいっぱいいっぱいだったのだろう、あの時も。
一粒だけ、キラリと光る雫が雨の目から。
「いや、嘘だ。」
雨が口元を歪めてそう続けた。
震える唇で、泣きそうな目で、精一杯の優しさで。
「本当は、俺が幸せにしたいんだ。」