佳き日に
ありがとうも言えなかった。
恩返しも出来なかった。
助けてくれたのに。
ボタボタと流れ落ちる涙。
何がいけなかったのか。
何が悪かったのか。
分からないまま雨の遺体をギュッと抱きしめる。
優しげな声も、本を読む横顔も、綺麗な茶色い目も、こんなにも鮮やかに思い出したのに。
もう動かない。
今はただ、雨が降ってくれればいいと思った。
涙なのか雨なのか分からないくらいずぶ濡れになりたい。
けれども空は灰色のままで。
握りしめたはずの暖かさが得たいのしれないゴミになり指の間からすり落ちていく。
茜はそれを泣きながら見つめることしかできなかった。