佳き日に
「菘本気かよ!?」
「本気よ。警察が手を出してこない今を逃したらもうチャンスはないかもしれない。」
すました顔でそう言うと「早く降りてよ」と目配せした菘。
桔梗と鉛丹はそれぞれ銃を持ち音をたてずに車から降りる。
渋々といった様子の鉛丹はドアを閉める前にくるりと菘の方を振り返った。
「死に急ぐなよ。」
早朝の爽やかな空気には似合わない台詞だった。
「あんたたちこそ。」
鉛丹の言葉を笑って軽くあしらった菘。
どこか憂いを秘めた笑い。
なんだか不思議で。
でも、嫌な感じはしない笑い方。
あと五年ほど経って、自分が菘くらいの年になったらそんな笑い方ができるのだろうか、と桔梗は思った。
それから菘に一つお辞儀をすると、桔梗は鉛丹と共に走り出した。