佳き日に
「兄さん、一般女性は紳士的な人に好感をもつらしいですよ。」
「はぁ?紳士ってあれか、手を引いて目的地までエスコートしてくれるっていうキザ男のことか?」
「そんなあからさまじゃなくて、さり気ない紳士さがいいらしいです。」
「さりげない紳士さってなんだよ。」
「気配りできるってことじゃないですか?」
あの雑誌にかいてあったことを実際にやるとか、桔梗は真面目だよな。
そんなことを思いながら鉛丹も席をたつ。
初めての店で、水の取り方など全くわからないが、まぁなんとかなるだろう。
ある程度琥珀から距離が出来たところで桔梗が口を開いた。
「彼女は囮でしょうね。」
ドリンクバーの横に給水の機械があった。
作業をしながら桔梗と鉛丹は話し合う。
「俺らのことを知っている可能性は?」
コップに氷を入れながら鉛丹は尋ねる。
カランッと響く音がやけに大きく聞こえる。
彼女、柳琥珀はメモリーズのことを知ってるのか?
さっきの質問はそういう意味だった。
「さぁ。それは分かりません。」
「わかんねーのかよ。」
桔梗の淡々とした口調に鉛丹は乾いた笑いを漏らす。
鉛丹も桔梗も本職は人殺しなので、会話で相手から情報を聞き出すことはそこまで秀でている訳ではない。
ある程度だったらできるのだが。
椿だったら一発で色んな情報を聞き出せるんだろうな、と考える。
「でも、彼女は僕らを疑ってはいませんよ。」
コップに水を注ぎながら桔梗は確信したように言う。
「良いことじゃねーか。」
鉛丹はニヤリと笑った。