佳き日に
前途有望生きてゆこうぞ
[2]
一回完全に引き離した鉛丹が追いついてくるとは考えていなかったのだろう。
鉛丹もまさか姿が見えなくなったのに再び見つけ出せるとは思っていなかった。
見失ったときの絶望感を思い出す。
桔梗様様だ。
発信機万歳。
鉛丹が後ろから来たのを見た琥珀の驚いた顔。
あれはなかなか傑作だった。
再び始まった自転車追いかけっこ。
両者とも本気だからか差はなかなか縮まらない。
何度も車に轢かれそうになり怒鳴られる。
鉛丹も、もちろん琥珀もだ。
二人の間は100mほどしかないので琥珀が車に轢かれそうになる光景ははっきり見えた。
その度に死ぬなよ、と心のなかで祈った。
死んだら人質の意味がなくなる。
これは建前の理由。
本音は、鉛丹の秘密を知る唯一の人物だから。
自分でも何を考えてそうしたのか分からないが、大切なものを彼女に託したのだ。