佳き日に
『館内にお越しのお客様に連絡です。大変申し訳ありませんがこれから定期点検及び定期清掃を行います。三十分ほど館外でお待ちください。』
放送が終わると、パラパラと疲れた顔した大人があちこちの部屋から出てきた。
仮眠でもとっていたのか、殆どの人があくびを噛み締めている。
その様子を鉛丹は女子更衣室に入る手前の角に隠れて見ていた。
ラッキーだ、そう思うことにした。
暴れるなら人が多い場所より少ない場所の方が騒ぎにならなくて済むだろう。
警察が来る前にちゃっちゃと終わらせよう。
そう思い女子更衣室をぐるりと見回した。
ガランとしていた。
一人も人はいない。
聞こえるのは鉛丹の息づかいだけ。
皆この時間帯は定期清掃があると分かっていたからお風呂に入らなかったのだろう。
一応浴槽内も調べてみる。
重いガラスの扉を開けた瞬間、ムワッと熱気がきた。
湯気で霞んで視界は悪かったが人がいないことは分かった。
ピチョン、ピチョンと水滴の音だけがやけに響いていた。
琥珀は確かにここに来たはずなのに、どこにもいない。
「あれ、あなた女子更衣室掃除よね?」
外からおばさんのそんな声が聞こえ、鉛丹はビクッとした。
定期清掃だ。
見つかったらマズイ。