佳き日に
[5]
閏は自分の耳が何かおかしいのかと思った。
いや、寧ろ耳がおかしくなっていてくれたらどれほど嬉しかっただろう。
そのくらい、雪からの言葉はショックだった。
「・・・椿さんにバレてたっていうのは、僕と雪先輩と琴が警察側だってことですか?」
「それと、お前と琴が鉛丹と桔梗の命を狙っていることもだ。」
「・・・最悪ですね。」
恐れていたことが遂に起きてしまった。
覚悟していなかったわけではない。
しかし、いつだって細心の注意を払い情報操作を怠らなかったので、よほどのヘマをしない限りバレないと思っていた。
警察とのやりとりも、絶対に足がつかないようにやっていたのに。
閏はため息をつきたい気持ちをおさえる。
「椿の情報収集能力を見くびっていたわけではないが、まさかここまでとは、俺もびっくりだ。」
「びっくりだ、なんて言っても雪先輩の表情、さっきとどこも変わってませんよ。」
「これからは表情筋を鍛えることにする。」
雪にそう言われて閏はフッと笑みをこぼす。
雪は相変わらず無表情だが、笑わせようとしてくれているのは分かった。
女子高生を囮として使うようなことを平気でするくせに、たまにこう、少し優しくなる。
雪先輩ってつかめない人だ、と閏は思う。
「表情豊かな雪先輩なんていたら琴が卒倒しそうなのでやめてください。」
実際、閏は内心テンパっていて、どうしようという思いが渦巻いている。
それでもまだ平静を保っていられるのは、雪が落ち着いているからだ。
冷静さを欠いたら命を落とすことになる。
それぞれが思案しだす。
これからどうやって他のメモリーズたちの攻撃から逃げ切ればいいのか。
閏は難題に頭を抱えた。