佳き日に
「エナカさんはどうなんですか?」
「分からないよ。殺し屋やってたり麻薬の密売したりの裏社会で生きるメモリーズは危険だから殺すべきだって、今までは思ってた。今でもちょっと思ってる。本当は分かってるんだけどね。」
「何をですか?」
「水は少し濁ってるくらいがちょうどいいって。」
天国じゃないのだ。
良い人もいれば悪い人もいる。
そうやってバランスをとっているのだ、この世の中は。
「人間が追い詰めたんですよね、きっと。」
メモリーズが、裏社会でしか生きてゆけないような世界にしたのは誰だったのか。
それは人間だと白川は言う。
私が思うに、それは。
エナカはそこで一度口をつぐむ。
「戻ろう。」
エナカはようやくそう言い、車の方へ歩き出す。
答えは出せなかった。
何も言わないでいてくれる白川の存在が今はありがたい。