佳き日に
[3]
タイヤが嫌な音をたてる。
軋んだ車。
轢くつもりだったのだが、さすがは閏と雪だ。
あっさりかわされた。
バリィンッと耳障りな音がして、助手席の窓が割られた。
そろそろ逃げよう、と菘は思った。
もう十分に時間は稼いだ。
このままここにいたら撃ち殺される。
横目で閏の姿を捉えた。
銃を構えている。
さっき窓ガラスを割ったのも彼だろう。
そこで菘ははたと思った。
雪はどこに?
その瞬間、看板が吹っ飛んできた。
大きい、鉄製の、「通行止め」と書かれた看板。
思わず菘はブレーキを踏んだ。
身体が前につんのめり、フロントガラスに思いっきり頭をぶつけた。
「一旦休戦だ。」
抑揚のないその声に振り向けば、雪と閏が車に乗り込んできていた。