佳き日に





「おい、菘。」

「何よ。」

閏に対してとは違う、やけに平坦な雪の声。

銃は相変わらず菘の方を向いている。
今、私の命は雪に握られている。
自覚した途端、ぞくりと寒気がした。


「知っている情報全部教えろ。」

「情報?」

「椿は死ぬ前、お前に何か言わなかったか?」

「椿。」


雪が口にしたその名前に菘は顔を顰めた。


「知らないよ、あんな裏切り者。」

吐き捨てるようにそう言った菘。

雪は眉一つ動かさず菘を見つめていた。

バックミラーに不思議そうな顔をしている閏が見えた。
なんで?とその顔が訴えている。
菘が椿と仲がよかったことを知っているのだろう。

裏切った理由なんて椿しか知らないよ。
私に聞かれたって分からない。

そう思いながら菘はバックミラーに映る閏から目を逸らした。




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