佳き日に
沈黙を破ったのは雪だった。
「稼ぐぞ。」
唐突に放たれた雪の言葉に、閏の頭はついていかなかった。
「こんな時でも仕事ですか。」
「こんな時だからこそ、だ。」
ますますわけが分からなくなって閏は眉を寄せる。
そんな閏の様子を意に介さず雪は話しを続ける。
「幸いにも俺らは業界でかなり有名だ。」
「そりゃあ警察に寝返ったメモリーズなんて前代未聞ですからね。」
「違う。そうじゃない。俺と琴は依頼料一千万超えの殺し屋。お前に関しては一億超えの狙撃手だ。」
「確かに、まぁ、依頼者泣かせ、とは言われますね。僕らは。」
閏が一億超えなのは単に狙撃を専門とするメモリーズが少ないからだ。
「それと同時に、他のメモリーズにとって俺らは最も敵に回したくない三人だ。」
俺も閏と琴を敵に回したら勝てる気がしないけどな、と雪はこぼす。
買いかぶりすぎですよ、と閏は笑う。
今、勢力がある鉛丹と桔梗でさえ依頼料は数百万らしい。
菘という女の暗殺者もそのくらいらしい。
値段からも分かるように、閏、琴、雪の三人はメモリーズの中でも飛び抜けている。
容赦はしないし、依頼は完璧にこなす。
「つまりは、よっぽど自分の力に自信のあるメモリーズじゃないと俺らを殺しには来ないだろうってことだ。」
「まぁ、そりゃそうですけど。そうなったら多分あっちは数で来ますよ。」
「鉛丹、桔梗、菘あたりが一気に来たら苦戦するだろうな。」
菘はあまり危ない橋を自ら進んで渡るようなタイプではないので、来るとしたら鉛丹と桔梗の兄弟でしょうね。
雪も多分同じことを考えているはずなので敢えて閏は口には出さなかった。